N50発達障害男子の中学受験、からの中高一貫校生活

発達凸凹、高IQでも偏差値は50。2023年中受終了した男子の生態を綴るブログです。

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serial experiments lain(ゲーム版) 感想

前回の記事serial experiments lainという1998年発表のメディアミックス作品の概要についてご紹介しました。今回の記事では主にゲーム版についての感想を書きたいと思います。

(今回もはてなブログ今週のお題「名作」に参加します)

 

※注意事項として、この感想は私自身がゲームをプレイした感想ではありません。実況者さんの行った実況プレイの1周目ラストまで、そしてその後の周回プレイのネタバレなどを他所で見た上での感想になります。ネタバレ大いにありますのでご注意ください。なお普段は一記事2,000字以下のブログですが、今回4,000字オーバーの長文となっております。

 

さてゲームの概要について。こちらはサウンドノベルゲー的なゲームです。

主な登場人物は幻聴・幻覚症状に悩まされている10代の少女玲音(レイン)と、その少女の主治医兼カウンセラーの20代女性、柊子(トウコ)になります。

プレイヤーは画面上にいる主人公のレインに似た容姿の女の子を操作して、周囲に散在しているカプセル?のようなものを開けていきます。

中に入っているのは各種の情報。情報のパターンは主に

・レインの日記

・トウコの日記

・二人のカウンセリングの会話

・トウコによるカウンセリングの報告書

・誰視点かわからない謎の映像

です。謎の映像以外は全て本人による音声としてのみの記録であり、そしてこれらの情報は時系列に沿ってすべてが揃っているわけではなく途中飛び飛びになっていたりします。(なおクリア後周回することで新しいカプセルが増え、都度新たな情報が開示されます)カプセルを開かずゲームを放置しているだけでも、時間の経過と共に謎の映像が流れたりします。

プレイヤーができるのはこの「情報」を見るだけ。これらを集めながら何が起きているのかを追っていくことになります。

 

ここからゲームの内容を感想を交えながら書きたいと思います。

レインは初登場時11歳。幻覚や幻聴、悪夢に悩まされているため、トウコによるカウンセリングを受けることになります。内気でネガティブなところがあり最初は心を閉ざしていたレインも、カウンセリングに通ううちにトウコに心を開くように。

が、そんなレインには学校生活がうまく行かないという悩みもありました。些細な友人関係の拗れから、中学生になると完全な不登校になってしまいます。

不登校になるとワイヤード(いわゆるネット)の世界にのめり込み、同時に自身が受けているカウンセリングや精神病についても興味を持つようになります。レインは自分のことを何らかの精神病ではないかと疑っており、カウンセリングの度にトウコに「私は病気なの?」と聞きますがトウコは「病気なんかじゃなわよ!」と取り合いません。(このやり取りに私はいつも違和感を感じていたのですが、もしかしたらレインが自身で精神病のことを調べ出すための伏線だったのかもしれません)

 

このレインちゃんが本当に賢い子でねー。精神医学だけでなく、興味を持ったNAVIやワイヤードの知識もどんどん吸収して、自分でいろんなプログラムを組めるようになっちゃう。そして、ワイヤードに接触したばかりの初期の頃は「現実は辛いことばかりだけどワイヤード民はみんな優しいから好き♡」だったのが、嫌がらせをされたりなどワイヤード民の負の側面が見えてくると「なんで私ばっかりこんな思い!復讐してやる!」と豹変していくのがまた現代のネット民にも通じるなあと。しかし彼女がただのネット民と違うのは中学生にして凄腕ハッカーとなり、ワイヤード上にてやりたい放題しはじめるところ。なりすましもクラッキングももうお手の物です。日記に書かれている内容だけ見ると内気ないい子そうなのに、ワイヤードにおいては臆することなくとても攻撃的な行動を取る。

98年当時日本にそういう概念があったのかはわかりませんが、最初はレインはいわゆるOEのあるギフテッド的な子なんだろうなー、今もこういう子はいるんだろうなーと思いながら見ていたのですが、この辺りからちょっと様子が変わってきます。

 

レインの不登校が本格化するにつれ、円満だった家庭環境は悪くなり両親は離婚。父親は家を出て母親はアル中に。父親を求めたレインはなんと得意のプログラミングにより父親を作ろうとします。

 

…イミガワカラナイ…

 

そう、ここで言う父親を作る、というのがAI機能を搭載した「仮想父親」なのです。レインはこの「仮想父親」に自身の知る父親の思考ルーティンを組み込んで「AIお父さん」を作り出すことに成功します。そのうちAIお父さんに実体まで与えようとロボットの体を組み立て始めますが、どうにもしっくりこないまま結局は上半身だけ作って手詰まりに。

しかしこのAIお父さんを作り出すにあたりおそらくネット上で色々悪いことをし、そうして自分の得意分野をどんどん伸ばして生き生きとしてくるレイン。反対にレインのカウンセラーであるトウコの日常はと言うと…

 

トウコはアメリカ留学帰りのエリートであり、本人もそれを自覚しています。少々恋愛依存気味で結婚願望も強く、日記では自身の恋人「タケシさん」について惚気まくり。

しかしその恋人が多忙でなかなか会えなくなり、さらに上司に疎ましく思われているのか仕事は雑用ばかりでレイン以外の患者を与えてもらえず、そのため書かなくてはいけない論文も進まない鬱々とした日々が続くようになります。レインの担当となったばかりの頃はやる気に満ち溢れイキイキとしていた日記の内容も暗いものになり、そのうち当初レインが訴えていた幻覚・幻聴にトウコ本人が悩まされるように。

ついにはカウンセリングの記録が「トウコがレインをカウンセリング」するものではなく「レインがトウコをカウンセリング」するものへと変化していきます。

 

この順風満帆でポジティブだったトウコの人生、およびその人格が狂っていく様を見せつけられていくのがひとつの鬱要素なのかもしれません。トウコが狂っていく様子というのは音声でしかわからないのですが、声優さんの演技がまたすごくてね。

途中でなんか聞いたことある声だなーと思って声優さんを調べたらZガンダムエマ・シーンをやってた岡本麻弥さんでした。そりゃあ上手いしさんざん聞いてるわけだわ。最近インボイス反対の声明を出していたこともニュースになってましたね。

 

…話が飛びました…

で、このトウコが病んでいく理由・原因は考察の余地があるのですが、少なからず影響を及ぼしているのがレインによる思想汚染です。

このレインの思想もまた鬱要素のひとつ。NAVIにてAIお父さんを作り出してしまったレインではありますが、その能力をもってしてもAIお父さんの体の作成には失敗してしまい、それまで自己学習した結果「人間には肉体なんていらないんじゃない?その人の記録思考ルーティンだけあれば、それが生きてるってことなんじゃない?」といった極端な考えに行きついてしまいます。思えばレインはゲーム序盤から自身の外見があまり好きでなかったり、体調不良で苦しい思いをしたり、あまり自身の「体」について良く思っていないことを日記に残していました。思春期らしく自身の体が両親の性行為により誕生したものということについても多少の嫌悪感を持っています。

そんな極端な思想を持ち凄腕ハッカーとなったレインは、ワイヤード上に保存されていた自身のカウンセリング記録だけではなくトウコの日記も既に盗み見ていました。そのため今のトウコの人生がうまく行っていないことを知っていながら、カウンセリングの手法を装ってどんどんトウコを追い詰め、自分の思想に同調させようとしていきます。

 

レインが最後に取った行動は…

肉体を捨て、記録と思考ルーティンのみをもってワイヤード上に自身の存在を移行すること。そして、その世界の仲間を増やすこと。

 

…というのがこのゲーム上で知り得ることができるストーリーとなります。

 

 

まず、実際に見る前までは「伝説の鬱ゲー」という触れ込みとサイコホラーというジャンル分類に戦々恐々としていましたが、意外と大丈夫でした。

実際に自分がプレイヤーだったら引きずり込まれていたのかもしれません。(最初に入力したプレイヤーの名前を音声で呼びかける、というちょっとビビる演出もあります。合成音声ではありますが、98年のゲームでここまでやるのすごいですよね)ですが途中で実況者さんのツッコミが入ることや動画に書き込まれたコメントなどにより客観性を保てたのと、最終的に悲惨な目に遭うトウコがその恋愛体質とプライドの高さにより私自身があまり好きになれないキャラだったことで、そんなに鬱を感じませんでした。

何よりこのゲームが時代を予見していたことと、その哲学的な内容にすごく心を動かされたことが大きいです。

 

serial experiments lainで一貫して問われているのは「存在とは何か」であり、言わば「我思うゆえに我あり」のデカルト哲学

(折角なので先日の記事でもご紹介したぴよぴーよ速報さん貼っときます)

youtu.be

 

ゲームの途中で登場した中学の友達「ミサトちゃん」は本当に存在した?トウコにはそれが「イマジナリーフレンド」として扱われていたけれど、レインにとっては確かに存在した。ではトウコの恋人「タケシさん」は本当に存在しているのか?プレイヤーはその存在をトウコの日記からしか確認できない。

現実に人間の生きている世界、このゲームで言う「リアルワールド」では「存在」というのはそんなあやふやなものでしかないとレインは示唆します。それは上記のデカルトで言えば、「根っこが間違っていたらいくらそれを元に推測しても全てが嘘になる」けれど「自分の精神は確実に存在している」ことは「根っことして確実に間違っていない」。

プレイヤーが知り得るのはこのゲーム上にある日記や報告書としてのデータだけ。そしてこのデータが真実かどうかなんて誰にもわからない。なぜなら「データ」はいくらでも書き換えることができる…

 

いやー、このゲーム、深い。

 

ものっっっすごく考察が捗るゲームだったので、俄然アニメの方にも興味がわいてしまい、全13話一気見しました。

ゲームの感想をいったん置いておいて、次はアニメの感想を書きたいと思います。

sasachizu.hatenablog.com