以前からずっと気になっていて、先日の機内で見た映画です。面白かったので忘れないうちに感想を書きたいと思います。
※思いっきりネタバレありなのでご注意ください。
人里離れた雪山の山荘で、男が転落死した。
はじめは事故と思われたが、次第にベストセラー作家である妻サンドラに殺人容疑が向けられる。
現場に居合わせたのは、視覚障がいのある11歳の息子だけ。
証人や検事により、夫婦の秘密や嘘が暴露され、登場人物の数だけ<真実>が現れるが──。
数々の賞を受賞した法廷ミステリーのフランス映画です。
しょっぱなからネタバレになりますが、最後まで見ても真実は明らかになりません。
知ることができるのは裁判の結果だけです。
疑いを掛けられた妻の容疑は最終的には晴れますが、本当に殺人を犯していないのかは誰にもわかりません。
そういう意味ではモヤモヤの残る映画ではありますが、見て良かった。
まず、これだけは声を大にして言いたい。
犬、スゲエ!!!!!
ストーリーの中でもキーとなる飼い犬スヌープを演じているワンちゃん、お名前はメッシ君というらしいのですが(思わず調べました)、なんとカンヌ映画祭にてパルム・ドッグ賞という賞を受賞したとのこと。そんなのあるんですね!
いや本当に受賞も当然というような素晴らしい名演技でした。瀕死で白目向いて嘔吐する演技なんて…人間だってなかなか出来ないよ。
そして、もう一人の物語のキーマン、息子のダニエル。役柄の年齢は12~13歳。
これは法廷ミステリーを軸に進んでいく話ではありますが、障害児育児などの問題なども含んだ人間ドラマでもあります。
ダニエルの視覚障害は後天的なものですが、この障害が誰のせいなのか、障害をどのようにとらえるか、彼をどのように育てるか、そしてその育児への負担について、共働き夫婦(しかも妻の方が稼いでいる)の間の押し付け合いが描かれます。
障害は自分のせいだと自分を責めて、ダニエルの育児や教育にしっかりと向き合い、だんだんそれが負担になってきて分担して欲しい夫。作家として売れたいのに鳴かず飛ばずという負い目もあり。
別に教育なんて適当でいい、私は仕事に専念したい、しっかりやりたがっているのはあなたなんだからあなたがやればいいじゃない、という妻。私は作家で大成してるのよ、という驕りもあり。
共働きしているとこういう夫婦喧嘩をする家庭は少なくないとは思うのですが…(どちらかというと男女逆パターンで)
残酷なのは、法廷でその内容をダニエル本人に聞かせること。しかもこのやり取りはその後妻から夫への暴力沙汰に発展しています。
それだけではありません。妻の方はバイセクシャルで(それ自体に罪はありませんが)女性の浮気相手と関係を持っていたことまでが自分の母親本人の口から聞かされるのです。
フランスの法廷って、こんなエグい話を12、3の少年に聞かせるの?
(一応、裁判への参加の意志は確認していますが)
こんな思春期の少年が、母親が同性ととは言え体の関係持ってましたって聞かされるのどうなの!?
そして明らかに、妻の分が悪いですよね?
(妻は母国語がドイツ語で英語を常用しているので、あまり得意でないフランス語での裁判でアウェイになっているという点でも、法廷での妻の印象がどんどん悪くなっていくのです)
でもそんな妻、自分にとっての母親を証言で救うのもダニエルなのです。
ダニエルはどんな気持ちで母を救ったのか。
母の無罪を信じていたからか。自分の庇護者がいなくなってしまうからか。
自分に向き合っていたのは、明らかに父の方なのに…
ダニエルだってもちろん真実は知らないし、ダニエルの気持ちは最後まで明かされません。
そこにあるのは「自分にとっての真実」だけ。
そして、そう信じたらもう、その道を突き進むしかない。
実際の事件における判決も、もしかしたらこんなことだらけなのかもしれません。
「真実はいつもひとつ!」で終わらず、考えさせられる映画でした。
あ、最後に一つ。
妻側のイケオジ弁護士がイヤにフェロモンを振りまくと言うか無駄に気を持たせるというか恋愛に発展するのかしないのか、有能なんでしょうけどその辺り必要?みたいなところが結構あってやっぱりフランス映画っぽいなあと思いました。